日本オフィス学会、第25回大会を開催
進運のオフィス学~今こそ、オフィスの意味を問う~
日本オフィス学会(JOS)は、2024年9月7日(土)、東京・新宿区の早稲田大学西早稲田キャンパスで、第25回大会をリアルとリモート参加のハイブリッド形式で開催しました。
大会テーマは、「進運のオフィス学~今こそ、オフィスの意味を問う~」
冒頭、司会進行の日本オフィス学会企画委員会委員長の古阪幸代氏が開会を宣言。今回の参加者が会場約150名、リモート参加約300名の合計約450名だと述べました。
日本オフィス学会会長の松岡利昌氏が開会の挨拶
続いて開会の挨拶を日本オフィス学会会長の松岡利昌氏が行い以下のように述べました。
「皆さんおはようございます。本日はお忙しい中、日本オフィス学会第25回大会にご参加いただき誠にありがとうございます。日本オフィス学会、会長の松岡利昌でございます。1999年本学会は立ち上げられ、私は発起人、理事として携わってまいりましたが、今回で4半世紀25年目を迎えこの大会を迎えさせていただきました。これもひとえにオフィスとこれに関連した分野に強い関心と調査研究を重ねてこられた会員の皆様、あるいはそれに関係した関係各位の情熱の賜物だと思っております。学会を代表いたしまして皆様に感謝の意を表したいと思います。
さて、本日の第25回の大会開催につきましては早稲田大学様には多大なるご尽力をいただきました。この第1セッションでは先ほどご紹介もありましたけれども、早稲田大学理工学術院学術院長 創造理工学部総合 機械工学科教授の菅野重樹様から歓迎のご挨拶をいただきます。菅野先生は日本ロボット学会の会長でもいらっしゃいまして、建築とロボットの話をこの後お聞きできるということで楽しみにしております。
また、午後の第2セッションでは、早稲田大学理工学術院の田辺新一教授からご講演をいただきます。田辺先生は今朝シンガポールから戻られたばかりで、大変ご多忙の中でお時間をつくっていただいて、さらにはスタッフや学生さんたちにもお手伝いいただくということで大変ご尽力いただきました。心より御礼申し上げます。
さて、本日私は会長として一つ皆様にご報告があります。この記念すべき第25回大会を早稲田大学で開催しますのに加えて、この度、日本オフィス学会オリジナルの書籍を出版することができました。これについて少しご報告したいと思います。
書籍タイトルは『オフィスから会社を変える~イノベーションが生まれる空間づくり~』です。今まさに、経営環境は目まぐるしく変化している時代です。日本は少子高齢化でグローバル化の波の圧力がかかっています。環境対応で非常に厳しい状況が続いております。経営の舵取りはますます難しくなってきます。そんな中成長の糧となるイノベーションをどうやって生めばいいのかということ、例え人手不足でもその中で知恵を絞らなければならない。この知恵を絞る原点、その場所がオフィスであるというメッセージを本書では伝えたいということで、この大会に合わせて約2年間にわたるプロジェクトとして識者を募り、この学会のメンバーを中心に書籍を完成しました。
実はこの本書の中でも田辺先生には大変なご尽力をいただいて、第4章の座談会にもご登壇いただいて、人的資本経営に対するするどいご指摘をいただきました。それが画面にもあります『人的資本経営の核心はオフィスにあり!』という帯をつけさせていただきました。
これについては少し解説させていただきます。人的資本経営というのは人、モノ、カネ、情報というのはいうまでもなく経営資源なのですけれども、人は経営資源でしょうか。人はお金のように消費してなくなるものではありません。ということでは人は資本である、と。したがって資本として投資され、そこで価値を生み出すものであるはずであるという、その意味で人的資本という概念は非常に重要な考え方であるというふうにいわざるを得ません。そこで人的資本経営という形で経済産業省が『人的資本経営の実現に向けた検討報告書~人材版伊藤レポート2.0~』というものを出しています。これはネットで経済産業省のWebを見て頂くとダウンロードできるのですが、そこに、『時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組』の項目に“働き方”についての記述があり、もちろん人のリスキニングや人が価値を生むための成長戦略のためのストーリーが描かれているのですけれども、その中で唯一働くことについては『時間や場所にとらわれない働き方をするための取り組み技術があります』。で、これまさに今のテレワークの話をされるんですけれども、実際には働く場所についての記述がほとんどないのです。人が生き生きと集ってそこで働きながら新しい発想とかひらめきを生む空間、このオフィスについての記述というものが抜け落ちているというご指摘をいただきました。そういうこともありまして帯に、人的資本経営の核心は実はオフィスなのだというメッセージをつけさせていただきました。そういう意味で社会に対して日本オフィス学会として1つのメッセージを出そうということでこの帯をつけさせていただきました。
この本は実は学会のメンバーが協力しあって、いわゆるオフィスの専門家プロフェッショナルが集まって全33点のエッセイ、ストーリーが書かれています。33点は3つに分かれていまして、トレンドとコラムと論文紹介ということで、皆さん学術論文で発表されているものもたくさんあるのですが、そのなかで関係する内容に対して、である調の文章ではなくて、ですます調で書き直して、そういう意味では大変な手間をかけてこの書籍をつくりました。目的としては日本オフィス学会のこれまでの活動、あるいはその成果や価値を一般の人たちにも知っていただきたいということであります。従って優しく書かないといけないということで全てわかりやすくである調ではなくてですます調で優しい表現に常に維持できるように編集の方では努力をしてまいりました。おそらくこの一冊で現状の変化するオフィスの全体像というのがほぼ網羅できているというふうに思いますのでぜひご参考にしていただきたいと思います。
あとはお手元に取って見ていただかないといけないんですけれども、簡単にご紹介すると、序章では『集める場所から集まる場所』ということで新しい働き方の全体像をご紹介しています。
第1章では、『変化する働く環境』まさにABWが新しい働き方についてのトピックス、これに関するコラムや関係論文の書下ろしを全部記述しています。
さらに第2章では、『変化する環境技術』ということで多様化する働く場を支える技術、例えばIoTやICTなどいろいろな技術があります。後で出てくるロボットみたいな話もあると思いますが、そういう話も含めて、技術に関して解説しています。
第3章では、これはあの日本オフィス学会のオリジナルな特徴でもあるのですけれど、オフィス環境の中で使われるさまざまな道具が出てくる、単にオフィス家具だけではなく、文具も含め、文具の将来、未来のことまで記述してるところが面白いなと思います。
そして第4章は、先ほどご紹介した座談会としてこれからのオフィスの行方についてリーダーの編集チームと一緒に田辺先生にもご登壇いただいて座談会を展開しています。なかなかおもしろい座談会になっております。読み応えのある内容と思いますのでぜひ見ていただければというふうに思います。
本誌は実は本当にオフィスの基本的なことを学ぶ入門書でもあります。そういう意味では総務部様や経営者の方々のみならず、広く一般の方にぜひお手に取ってお読みいただくことをおすすめします。
最後になりましたけれども本大会はさまざまな研究成果を共有する貴重な機会です。また出会いの場でもあります。色々な人たちと共有しながらイノベーションのチャンスを探していただければと思います。なお、こちらの会場にお越しの皆様にはプログラム終了後に懇親会もありますので、お時間の許す限り情報交換をしていただきますことを祈念しながら、開会のご挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございます」
早稲田大学理工学術院学術院長 菅野 重樹 氏が記念講演
続いて、早稲田大学理工学術院学術院長 創造理工学部総合機械工学科 教授・工学博士の菅野 重樹 氏が記念講演「知能ロボットと建築との関係」を行いました。
講演の概要は以下のとおりです。
「少子高齢社会は労働人口の減少をもたらし、近い将来に生産労働者、福祉における介護者、医療従事者などの不足が深刻な問題になることは明らかである。生産現場では既に自動化技術やロボット技術の導入が進められているが、福祉・医療分野では安全性だけではなく標準化、リスク管理、社会受容性に代表されるELSIに関する課題もあるため、導入には時間がかかると予想される。このような背景の下、人に近い形態と機能を有する知能ロボットの多数の動画がwebで公開されるなど、大きく進歩しているようにも見えるが、適応性、安全性、上述の社会受容性など、実用化に必要となる課題はほとんど解決されていないのが現実である。生成AIの研究もほとんどはCyber空間の話となっており、身体のあるロボットが動くPhysical空間との結び付きは研究がようやく緒に就いたところと言える。
ところで、建築やオフィス設計はPhysical空間の構築であり、この点からロボットやAIと深い関連性がある。2000年開始したWABOTHOUSEプロジェクトは上述した知能ロボット開発の難しさから、ロボットの知能化ではなく家すなわち空間の知能化を目指していた。また、ロボット技術が多様な基盤技術の融合であることから、その開発研究の現場には分野が異なる研究者が集まり、協働することが有効である。早稲田大学では文科省のリーディング大学院の制度の下で、「工房」と名付けたオフィスを異分野融合・協働の場として用意し、そこから様々なロボットや知能システムを発信し、同時に新しい視点での大学院博士課程教育を実施している。また、知能ロボット開発では、内閣府が中心となり開始されたムーンショットプロジェクトの目標3において、「一人に一台一生寄り添うスマートロボット」のプロジェクトを早稲田大学が中心となり展開しており、家庭や福祉・医療、ビジネスなど様々な空間への人間共存ロボット導入を目指している。
本講演では、建築とロボットの関係、最新のロボット技術を紹介しつつ、将来の人とロボットとの関係を考える」
早稲田大学創造理工学部建築学科・教授の田辺 新一 氏が基調講演
間に昼食休憩をはさんだ後、
早稲田大学創造理工学部建築学科・教授の田辺 新一 氏が基調講演「人的資本を向上させる鍵はオフィス」を行いました。
講演の概要は以下のとおりです。
「人的資源や人的資本という考え方が広まる中、従業員を労働力としてだけではなく、企業を構成する貴重な経営資源として捉える潮流が加速している。人的資本の観点からは、企業の組織風土や執務者の業務特性を考慮した働き方の採用とともに、執務者同士の交流や、執務行動のしやすさ、環境満足度を重視することでウェルネス向上を目指すオフィス環境の提供が重要になってきている。都市の一般的な建物では、人件費を100とするとオフィス賃料が10、光熱費1程度の割合になる。省エネルギーも重要であるが、執務者の知的生産性が低下しては困る。本講演では、オフィスに投資する価値に関して、オフィス環境満足度と主観作業能力の向上、コロナ後の健康とウェルビーイングの将来像について紹介する。また、研究室で行っている40を越えるオフィスでの実測・アンケート調査結果を紹介する。ワーク・エンゲージメントが高い執務者は良いオフィスを求めるというエビデンスを紹介する。また、人々の幸福感を構成するのは、コミュニティー、個人生活、労働であるという構造分析結果に関しても最新の研究成果を報告する。
「大会論文発表」と「研究部会発表」
その後会場を3つに分けて「大会論文発表」「研究部会発表」が行われました。「大会論文発表」「研究部会発表」の内容は以下のとおりです。
大会論文発表
① 議論におけるパートナーの知能とプレゼンスが合意形成プロセスに与える影響に関する研究:東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻 修士1年 濵田 直生 氏
② ハイブリッド型会議における情報の偏りを改善する行為に関する研究:東北大学大学院都市・建築学専攻 修士課程 松實 秀麿 氏
③ 業務シナリオ変革試行錯誤時の副作用抑制法探索に関する一考察:セカンドカード研究処 学博 柳父 公二 氏
④ ワークプレイス・データモデル研究 その2‘Seating Index’のワークプレイス・プランニングにおける活用方法の提案:武蔵野大学大学院 データサイエンス専攻博士課程(後期) 熊谷 比斗史 氏
⑤ 創造的コミュニケーションを誘発する感性空間の効果に関する研究:コクヨ(株)ワークスタイルイノベーション部 三塚 航平 氏
研究部会発表
① ユニバーサルデザイン研究部会:「オフィスでの避難困難者の対応について」
(株)丹青社 遠藤 安泰 氏
コマニー(株) 高橋 未樹子 氏
ダイシン工業(株) 松村 光博 氏
プラス(株) 水谷 笑理 氏
(株)オカムラ 嶺野 あゆみ 氏
②ワークスタイル研究部会:パネルディスカッション 「これからの時代の「働く」を捉えるために」
司会:
三井デザインテック(株) 武部 雅仁 氏
パネリスト:
(株)ニッセイ基礎研究所 吉田 資 氏
プラス(株) 辻井 耕太郎 氏
(株)リコーリコー経済社会研究所 小川 裕機 氏
③オフィス環境設備インフラ研究部会 「オフィスインフラの未来予想図~進化するスマート技術とワークスペース~」
同志社大学 三木 光範 氏
(株)イトーキ 福島 勇希 氏
三機工業(株) 土屋 茂樹 氏
三機工業(株) 井上 美樹 氏
④オフィス家具研究部会 「NeoCon2024報告~ワークプレイスの選択肢」
(株)オリバー 魚阪 浩司 氏
ワークスケープ・ラボ 岸本 章弘 氏
プラス(株) 溝口 寛二 氏
⑤ ステーショナリー研究部会 「ハイブリッドワーク時代の手書きオンライン会議の可能性を探る Ver.3」
コクヨ(株) 藤木 武史 氏
コクヨ(株) 米倉 邦征 氏
コクヨ(株) 墨田 知世 氏
高畑 正幸 氏
日本ノート(株) 松本 竹志 氏
プラス(株) 岩元 塁 氏
(株)ライオン事務器 福田 岳司 氏
ポスターセッションを展開
また、63号館1階 情報ギャラリーではポスターセッションが展開されました。
大会論文発表:熊谷 比斗史 氏
研究論文発表:オフィス投資価値研究部会
「オフィス投資価値研究調査結果の経営学的考察」
オフィス人間工学研究部会
「個人ワークブースに関する人間工学的基礎調査研究」
オフィス家具研究部会
「オフィス家具マテリアルのサステナブルな取り組みの考察」
ストリーミング配信
その他2024年9月5日(木)~9月30日(月)には以下の発表がストリーミング配信されました。
大会論文発表:「ウォーキングミーティングが発散的思考に及ぼす影響」
京都工芸繊維大学 工芸科学部 山口 幸輝 氏
研究部会発表:ワークプレイスプログラミング研究部会
パネルディスカッション「ワークプレイスプログラミングの新たな兆し その2」
懇親会を開催
最後に懇親会が開催されました。
懇親会の冒頭、松岡会長が挨拶を行い
「皆様お疲れ様でした。今回ウェブの方がたくさんいらっしゃいますのでどうなるかなと思っておりましたけれども非常に盛り上がってよかったなと思います。最初の菅野先生からはじまってロボットの話が出て、田辺先生から、調査の中で色々なオフィスの働き方、ウェルビーイングの働き方、その後ほかの部会の研究論文発表、最後に各部会の研究発表も聞かせていただきました。その中で今回の印象は、やはりテクノロジー、AIの話とかDXの話とかその話と人間系のwellの話、人間とそのテクノロジーがどう共存して行くかみたいな話が主流になってきているのかなという印象を受けました。そういう意味ではまさにこの日本のオフィスが今変わり目にあるところなのだというふうに思います。
更にオフィス学会から『オフィスから会社を変える』を発刊しました。オフィス学会は25年経ち、学会誌は16年、毎年2冊出しているのですけれども書籍としては初めての出版となります。約一年半産みの苦しみをした本です。
すごく読みやすくわかりやすくまとまっていると思いますので是非お買い求めいただければというふうに思います。本当に皆さんお疲れ様でした」などと述べました。
乾杯の発声を田辺教授が行い
「皆さんお疲れ様でございました。私も発表を聞かせていただいて大変自分の糧になるようなことをうかがいました。
ウェルビーイングってなかなか日本語にならないですね。私のアメリカの友人にハピネスとウェルビーイングはどう違うのかって聞いたらハピネスは今幸せっていうことなんです。ウェルビーイングは一生涯過ごして俺の人生はよかったなというのがどうもウェルビーイングらしいんですね。今日は色々なことがありましたけれど、今日を糧に研究が進んでよかったなと思えるように乾杯したいと思います」
などと述べ乾杯の発声を行いました。
中締めを東京造形大学名誉教授で日本オフィス学会副会長の地主 廣明 氏が行い、万歳と関東一本締めで会を締めました。