日本オフィス学会、第26回大会を開催

「知の呼応するオフィス~新たな価値創造をめざして~」

日本オフィス学会(JOS)は、2025年9月18日(金)、大阪府茨木市の立命館大学大阪いばらきキャンパスで、第26回大会をリアルとリモート参加のハイブリッド形式で開催しました。
大会テーマは、「知の呼応するオフィス~新たな価値創造をめざして~」。

冒頭、司会進行の日本オフィス学会企画委員会委員長の古阪幸代氏が開会を宣言。今回の参加者が会場約200名、リモート参加約 名の合計約300名だと述べました。

日本オフィス学会会長の松岡利昌氏が開会の挨拶

続いて開会の挨拶を日本オフィス学会会長の松岡利昌氏が行い以下のように述べました。


「先日9月11日(木)、日本の文化を紹介するNHK WORLD-JAPANの番組「Japanology Plus」のオフィスの特集に、司会のピーター・バラカンさんに随行し、コメンテーターとして出演しました。
実際に回ったのは、5000㎡くらいのメガプレートのオフィスだとか、このキャンパスのように先進のテクノロジーが満載されたオフィス、あるいはオフィスの中にサウナがありその中で会議をする、オフィスの1階が地域に開かれていて地域住民と社員が交流をするオフィスなどNHKは、多彩な取材を行っておりました。
その中にNHKのアーカイブがあり、60年代から70年代にかけて日本のオフィスがどのようなものだっか。まさに島型対向オフィスや、教室のように一人の監督が全員を管理するブルペンオフィスなどの映像を対比しながら最新のオフィスを見ると格段の違いがある。まさにここ数年がオフィスが大変な進化を遂げている。いわゆる日本から世界へ発信する番組で取材するに値することになったなあと思います」などと述べました。

その他の概略は以下の通りです。(以下は日本オフィス学会大会 梗概集より転載)
「本年2025年は、関西が日本経済の次なるステージへと躍動する象徴的な年でもあります。2025年大阪・関西万博の開催もあり、インフラ・都市整備はかつてないスピードと規模で進行しています。とりわけ、大阪駅北側の「梅北2期」開発は、グラングリーン大阪やJAM BASEといった象徴的な複合施設の完成を通じて、国内外からの人・投資・アイデアを呼び込む「都市のゲートウェイとして新たな機能を担い始めています。とりわけ大阪のオフィスが面白いのは、その多様性にあります。DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルーション)は言うまでもなく、働く人々の心の安らぎや趣味・嗜好にまで寄り添う細やかな配慮が感じられます。
たとえば、グラングリーン大阪に整備された「Park Midori Life」では、オフィスエリアであるにもかかわらず、週末になると芝生に腰を下ろす家族連れや若者たちの姿が見受けられます。自然と都市が調和し、職場でありながらも市民に開かれた空間として機能しているのです。これは、自然環境への配慮と都市づくりが心地よく結びついた好例であり、オフィス空間の新しい可能性を示しています。その経済波及効果は兆円単位ともいわれ、まさにオフィス・都市空間の再定義が求められる局面にあります。
このような歴史的転換点において、本学会がオフィスのあり方を学術的に探究し続けている意義は、一層高まっているといえるでしょう。
本年度の大会は、立命館大学大阪いばらきキャンパスにて開催する運びとなりました。特に今回は、2024年春に新設されたばかりの「H棟」にて行われ、同施設内の共創空間「TRY FIELD」を活用できることを大変光栄に思っております。学生・地域・企業が越えて交わるオープンで先進的なこの空間は、まさに現代オフィスの新たな価値を象徴する場であり、我々の学術探究のフィールドとしてもこれ以上ない舞台です。


1999年の創設から四半世紀を経て、オフィスの意味・役割・価値は劇的に変化してきました。私たちはこの間、学会誌の発行、査読論文の蓄積、研究セミナーの開催、そして年次大会という継続的な知の集積と発信を重ねてまいりました。近年では「人的資本経営」の文脈の中で、オフィスは単なる物理的空間ではなく、「人の可能性を引き出す装置」として再評価されつつあります。
本日の大会では、立命館大学のサトウタツヤ先生よりご歓迎の挨拶をいただくとともに、建築都市デザイン分野の第一人者である近本智行先生をお迎えし、記念講演を賜ります。午後のセッションでは、論文発表、研究部会報告、そしてポスタープレゼンテーションという多層的な知の交換が予定されています。特にポスタープレゼンテーションは、昨年度からの試みを引き継ぎつつ、対話的・視覚的に研究成果を共有できる新しい発信の形です。
本大会が皆様にとって有意義な学びと出会いの場となり、これからのオフィス研究のさらなる発展へとつながることを願ってやみません。また、プログラム終了後の懇親会にもぜひご参加いただき、忌憚のないご交流を深めていただければ幸いです。
最後になりますが、本大会の開催にあたり、共催いただきました立命館大学サステイナビリティ学研究センターの皆様に心より御礼申し上げます」などとしました。

サトウ タツヤ 立命館副総長/立命館大学総合心理学部 教授が記念講演

記念講演を学校法人立命館副総長/立命館大学総合心理学部 教授のサトウ タツヤ 氏が行いました。
テーマは、TEA(伏線径路等至性アプローチ)
=オフィスにおける人生径路と課題解決を考えるためにー
The Trajectory Equifinality Approach(TEA)
―Exploring Life Trajectories and Problem-Solving in the Office Context―


講演概要は以下の通りです。
オフィスは、仕事をする場、労働の場、だけではなく実は多層的な意味を持つ豊かな空間だということをオフィス学会の活動HPを見て気づかされました。あるオフィスで働くことは、その人の人生径路において特定の職場で働くという意味でキャリアの問題と関係します。また、そのオフィスで実際にどのように業務を遂行するかは、課題解決の問題にも関わります。つまり、人生をどう生きるか(キャリア形成)と、目の前の仕事をどうこなすか(課題対応)という二重性をオフィスは支えているとも言えます。他にも、居心地のよさ、仕事のしやすさを支えるレイアウトや道具の工夫など、さまざまな要素が関わっています。
このように見ると、オフィスと文化心理学の接点は意外に近いのかもしれません。本講演では、記号論的文化心理学とその方法論であるTEA(複線径路等至性アプローチ)を紹介します。記号論的文化心理学は、課題への取り組みに複線性を見いだす考え方であり、TEAは人生の選択や進路に複線性を見出す枠組みです。


心理学者ケーラーのチンパンジー実験が示すように、問題への直線的な対応ではなく、一見すると遠回りな行動が本質的な解決につながることがあります。これは問題の全対像(ゲシュタルト)を描けるから遠回りができると言えるのです。「急がば回れ」のように仕事上やキャリア選択上の迷いに対して俯瞰的な目で複線を描けることは人生を豊かにします。TEAはこのような短期的な課題や長期的なキャリアの間にある複線的径路を可視化し、日々の行動に潜む人生的な意味を明らかにする方法です。
この視点を取り入れれば、効率や成果だけでは測れない、働く人の選択や経験の意味に目を向けることができます。オフィスは単なる機能空間ではなく、キャリアが紡がれたり、予期せぬ転機が潜む場所です。働く人の仕事やキャリアを複線的に捉える視点は、今後の職場づくりや人材育成において、意外なヒントを見出させてくれるかもしれません。

近本 智行 立命館大学理工学部建築都市デザイン学科 教授が基調講演

続いて、
基調講演を立命館大学理工学部建築都市デザイン学科 教授、サステイナビリティ学研究センター・センター長の近本 智行 氏が行いました。
テーマは「人を中心としたオフィス環境」Human-Centered Office Environment
講演概要は以下のとおりです。


オフィス環境の基準と言えば「建築における衛生的環境の確保に関する法律」、いわゆるビル管理法で定められ、設計も運用もその基準を順守することが前提だった。いつでも、どこでも快適に過ごすためのオフィス内環境は、空間的に均一で、時間的にも変化のない状態が重視され、これを実現するハード面の整備が優先され、個人ごとに異なる好みや、ワークスタイルの違いによる執務者の状態にまではさほど重視してこられなかったように感じる。
一方、米国グリーンビルディング協議会は、オフィスで働く人そのものを健康で幸せにすることを重視したWELL認証を作成し、国内でもCASBEEに健康というツールが加わった。環境配慮建築の流れは、建物を対象としながらも、そこで過ごす人をターゲットとする動きに変化している。オフィスデザインでも、優秀な人材を確保することを意図し、執務者の多様なニーズに応え自由に場所を選択し働くABWが普及しつつあり、より創造的や知的生産性を高め、新たな価値創造につなげつつある。


ここでは人をおターゲットにした「ヒューマンファクターデザイン」を様々な観点で分析し、人を中心としたオフィス環境構築に結び付けられるような研究成果を報告する。従来の「空間を対象とした環境制御」から「人間を対象とした環境制御」へと制御概念の変化を進めるために、実現象として生じている室内の温湿度やCO2分布の非定常現象における受熱・放熱、そして呼吸に伴う生理現象と、実際に感じる快適性・温冷感、生産性の変化を見ることで、人体の生理反応や心理状態に応じた自然な運用を行う空調制御に応用することを考えた。

校舎見学会を実施

講演終了後、昼食時間を利用して、校舎見学会が行われました。

第2セッション

午後は第2セッションで「大会論文発表」「研究部会発表」「ポスタープレゼンテーション」が行われました。
第2セッションの詳細は以下の通りです。

《大会発表論文》

1 オフィスワークプロセスモデルを基点とする副作用抑制試行案探索

2 オフィスライブラリーに関するアンケ―ト調査を基にした利用ニーズの把握の研究

3 個々のワーカーに配慮したオフィス設計を支援するワーカー特性アンケートによるABWオフィスのエリア割合算出に関する研究

4 “行きたくなるオフィス”に構築に向けたウェルネス性能の分析(第1報)アンケート調査概要とアンケート調査結果

5 “行きたくなるオフィス”に構築に向けたウェルネス性能の分析(第2報)相関分析・重回帰分析・高次因子分析モデルの構築

6 知識創造オフィスの評価改善プロセスの検証:ベンチマーク2社インタビューによるSOFモデルの有用性

《ポスタープレゼンテーション》

1 優秀なワーカーが好むオフィス環境に関する研究

2 ABWの導入が業務活動チーム内の多様性に与える影響に関する研究

3 ワークシーンにおける感情を共有するワークショップツール『emork』 を活用したワークショップの改良

《研究部会発表》

1 ユニバーサルデザイン研究部会

   ポスタープレゼンテーション:オフィスでの避難困難者の対応について 

2 ワークスタイル研究部会

   パネルディスカッション:Well-doingとWell-being日経ニューオフィス賞受賞オフィスの事例からの考察

3 オフィス環境設備インフラ研究部会

   研究発表:クロスカルチャード・オフィス=つながり方と快適性の再構築=

4 ワークプレイスプログラミング研究部会

   パネルディスカッション:ワークプレイスプログラミングの現在地=取り扱う課題の変化の整理=

5 ヒューマンキャピタルオフィス研究部会

   研究発表:ヒューマンキャピタル経営の実践を支えるオフィス=“本気度”の可視化をめざして

6 オフィス人間工学研究部会

   研究発表:作業内容と作業環境の人間工学的検討

7 オフィス家具研究部会

   研究発表:ワークスタイルの変化とオフィス配線の展望

   ポスタープレゼンテーション:様々な循環型ビジネスの考察とオフィス家具ビジネスの選択肢vol.2

8 ステーショナリー研究部会

   研究発表:手書き能力を用いた分析:手書き能力と創造性の関係

懇親会を開催

第2セッション終了後懇親会が開催されました。
懇親会の進行は日本オフィス家具協会事務局長内田道一氏。
冒頭、松岡会長が今回の参加者が過去1位か2位くらい盛況だったことや近本教授をはじめとした関係者に感謝の言葉を述べました。

近本教授が乾杯の発声

続いて、乾杯の発声を近本教授が行い、
「無事に立命館大学での日本オフィス学会の大会を終えることができほっとしています」などと述べ乾杯の発声を行いました。

關倫太郎氏がトリアコンタの会の紹介を実施

懇親会の途中で株式会社Duck Dive代表取締役の關倫太郎氏がトリアコンタの会の紹介を行い、20代、30代の会員の入会を促しました。

佐藤泰名古屋大学大学院芸術工学研究科講師が締めの挨拶

締めの挨拶を名古屋大学大学院芸術工学研究科講師の佐藤泰氏が行いました。


佐藤氏は「オフィス学会はオフィス家具協会から発生していてハードが強い印象があります。皆さんの仕事は空間のなかで社員さんにどうやって元気に働いて前向きに人と交わって新しいアイデアが生まれたらいいな、とか、仕事したくないけれど出社しなければいけない気持ちを受け止める場所をつくるお仕事だなと思っておりますが、今日の講演での、主観ですとか定性的ということを僕は大事にしていきたいし、AIが絡んできた時に、人間が空間づくり、組織づくりにどうかかわるか、ハードをつくる皆さんにも大事にしていただきたいと思っているところです。皆さんがつくって来られたハードづくりを僕らもいい形で引き継いでいきたいなと思いますので。ぜひ温かい目で見ていただきたいと思っています」などと述べ、一本締めで会を 締めました。

最後に全員での記念写真撮影が行われました。

次回の大会は、2026年9月18日(金)東京の実践女子大で開催

次回の大会は、2026年9月18日(金)東京の実践女子大で開催されます。

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