オカムラ、デザインスペースR第18回企画展を開催

『Tamping Earth』―オフィス空間にあらわれる土の実験劇場―

オカムラは、2022年7月19日から8月5日(土曜日・日曜日は休館)、東京都千代田区のオカムラガーデンコートショールームで、オカムラ、デザインスペースR第18回企画展を開催しました。
同展は毎回、「企画建築家」を選び、建築以外の領域の表現者との「協働」の形で、「いま最も関心のある、だが建築だけでは達成できない空間創生」に挑戦してもらうという企画展だといいます。

企画展の展示


今回のタイトルは、『Tamping Earth』―オフィス空間にあらわれる土の実験劇場―です。
企画建築家は齊藤正氏(建築家)。協働の表現者は、本広組Creative Salon FOE(オンラインサロン)+高井浩子氏(脚本家・演出家)+矢内原美邦氏(振付家・ダンサー)。
今回、着目する素材は土だといいます。版築という素材・技術を用いて、世界的なネットワークで新たな人間環境のあり方に取り組んでいる齊藤正氏を企画建築家として迎え、齊藤氏の指名によって、本広克行氏の率いる映像・演劇集団「本広組Creative Salon FOE」との協働が、「オフィス空間にあらわれる土の実験劇場」として実現。版築で3次元的に構成される実験劇場を舞台にして、会期中の火・水・木曜日に、新作の演劇を完成させる様子を展開していくという企画です。
版築とは、「土」を原材料とし、型枠を立てて突き固め、圧縮力を加えながら強度を出し、建築や土木などに応用される工法で、古代コンクリートもこの工法の延長線上にあり、万里の長城やピラミッドなどにも用いられているといいます。日本でも法隆寺の塀などにもこの工法が使われていますが、現在版築で建築を行う事例は少ないとしています。
齊藤氏が版築を始めたのは、東日本大震災の災害支援(ZENKON湯)を行っていたころだといいます。瀬戸内国際芸術祭が、氏の地元丸亀の本島で開催されるのを聞き、塩飽大工の復刻を20代のころから企んでいたという氏は、災害支援の傍ら、本業そっちのけで芸術祭に飛び込んだとしていますが、島での建築は資材の輸送費がかかるため、資材を持ち込んで建築を作ることは限られた予算では不可能に近かったといいます。
その一方で、東日本大震災の被災地では、1年が過ぎ、落ち着きを取り戻しつつありましたが、復興の槌音は聞こえてこなかったといいます。建築や土木の関係者も被災していましたが、不法占拠して強引にものを作り上げる人達はまったくいなかったとし、ものをつくることさえも奪い取った災害に怒りを覚えつつも、何もないからつくれないというロジックを打破したいち考え、何もないところから建築がつくれることを証明するために、そこにあった土と苦汁と消石灰で通称「とぐろ:塒」と呼ばれる建築を瀬戸内国際芸術祭でつくることに挑戦したとしています。それが氏の版築の始まりだといいます。
氏は、持続可能な社会実現に向けて、版築に注目が集まり始めたといいます。本島の版築建築「とぐろ:塒」も例外ではなく、多くの反響を呼んだとしています。氏がフランス・リヨンで開催された土の建築賞で出会った世界各地の建築家達は口々に「鉄筋コンクリートの時代は終わった。無筋の時代が来る。」と言っているといいます。そもそも地震の少ないヨーロッパやアフリカをフィールドに活躍している建築家の談話ではあるようですが、コンクリートの中性化による爆裂問題はヨーロッパでも深刻で、無筋で建築をつくることへの研究はすでに始まっていたとしています。その旗印が彼らにとっての版築で、氏のつくる版築に興味を持っているようだったといいます。
版築は、土を主原料に少量の混和剤によって構築されることから、何度も再構築が可能な工法だといいます。一般的に建設地に近い土を使うことから、輸送マイレージも少ないサスティナブルな工法といえるとしています。
人類は、何度も技術の進化の分岐点を超えて、現代の文明を手にしていますが、その過程で、多くの技術を切り捨ててしまっていると氏はいいます。版築も例外ではなく、経済性や手軽さといった、時代の都合で淘汰された技術の1つであるとしています。時代を遡って技術を掘り起こす、リバースエンジニアリングの1つに版築があるといいます。技術を科学的に掘り起こすだけではなく、その美的要素を引き出していくことも、建築家が目指すべきことだと氏は考えているとしています。
版築をアクティブに生活に転化する姿を、演劇やダンスに見られるアフォーダンスや見立ての手法により、今回、実験的に見ることができるだろうとしています。

会期中シンポジウムも開催

7月28日にはシンポジウムを開催しました。パネラーは、齊藤正氏、高井浩子氏、矢内原美邦氏、アンカーマンは川向正人氏、など。

シンポジウムの様子


そこにおいて齊藤氏は、版築にいたるまでの建築家としての活動や、東日本大震災での災害復興支援活動、版築を始めたきっかけについてなどの経緯を説明した後、今回の展示について、なぜ、「土」「アフォーダンス」「見立て」なのかということに言及し、建築、アーキテクトの原点は土なのではないかと考えたとしました。創世記においてアダムは土塊からできたとか、日本の国生みの話などを例にとり、土がエネルギーを発する、自然界にあるものからシグナルが出ているとし、例えばいすの高さのものを椅子と見立てたところから椅子がはじまったなどといいます。昔から日本人はそのように土を見立てながらいきているのではないかとし、ものから発生するシグナルを受け取って建築化していくということや、土と消石灰とにがりでできる現代の人が忘れてきた工法である版築をよみがえらせることとそれが持つ未来への可能性についても述べ、土から始まって土に終わるという何度でもつくりなおせる終わりのない建築であるともしていました。

講演する齊藤氏


また、演劇やダンスなどとの関連性について、ダンサーの矢内原氏は、ダンスには一つひとつに意味があり、身体は何も考えなくて動くのではなくその都度その都度考えがあって動かしているなどとし、今回の版築ではわざと踊りにくい空間にしてダンサーが土とどうかかわって身体を繰り広げていくかを本番でやりたい、などとしていました。
質疑応答なども行われシンポジウムは盛況の裡に終了しました。

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